南紀熊野体験博'99押花芸術祭記念 第1回 世界押花絵コンペティション
(世界の押花作家による世界初のコンテスト) 総合テーマ「愛 Love」 
クラス2「愛をテーマとした自由題」特別賞

自然の花色を
 画材として描く

ふしぎな花倶楽部(押花アーティスト)平田 睦子さん
Mutsuko Hirata  秋田市桜ガ丘


どんな花にも生命が輝くような美しさがある。しかし、それはひと時の間だけ。この美しさを永遠にとどめることができたら…。そんな願いを現実にしたのが押花である。


  花の色をそのままに

 平田さんの作品を見て驚くのは、生花の色が褪せずにそのまま残っていることだ。水分を完全に取り除いた花には独特の色彩があり、自然がつくった絵の具という趣がある。平田さんが最も好きだというデルフィニュウムの青い花びらは紫色をおびて神秘的でさえある。ツル性植物のツルと葉を配した絵は影絵のような、不思議な世界を感じさせる。

  花そのものが絵になる

 このような花の色を鮮やかに保つ秘訣は特許による保存方法にあるという。花は摘んだ瞬間からしおれはじめるので、その場で手早く乾燥マットに挟んで押花にする。絵の構想を頭に描きながら花の形を整えて押すのだという。つまり押す時に画材としての花の形は決まってしまうということだ。花びらの配置、葉の向き、茎の曲線など、一本の花でも押す形によって表情が生まれ、それだけで絵になる。「初めて乾燥マットを開けて自分の押花を見た時の感動は忘れられない」という。

  完全密閉で保存

 乾燥マットに挟んだ後は重石を乗せて水分がぬけるまで時間をおく。
「この中から選んで、絵にしていくんですよ」
 密封した袋に保存されている花や枯葉、葉、果物のスライス、野菜のスライスなど、まさに季節の画材といったところだ。
 完全に乾燥させた花を専用のキャンバスに並べ、乾燥剤と脱酸素剤を入れ、ガラスを置き空気を抜いて密閉し、押花の絵が完成する。空気にさらすことがないので、直射日光に当てない限りは変色しないという。


  ワインのような余韻を

 平田さんが押花に出合ったのは四年前。寝たきりの義父が阪神大震災後まもなく亡くなり、平田さん自身も精神的に不安定な日々がつづいた。そんな時、押花に出合い、のめりこんでいったという。押花の特許を持つ杉野氏に半年間師事。直伝の技術を身につけることもできた。また、押花の取りもつ縁で人の輪も広がり、夫や子どもたちも花の収集に協力してくれるようになった。
「いいワインを飲んだ時のように、余韻が残る絵がいい」
 夫の言葉がさらに押花の世界を広げてくれた。現在はキリ絵や和紙の活用に取り組んでいる。