トールペインティング講師(ジャパンカントリーアート追分教室)
 奈良 輝子さん Teruko Nara
秋田市金足小泉字潟向3-2


 

 部屋がほほ笑んでいる。明るい陽が差しこむ奈良さんのアトリエに入った瞬間、そう感じた。見ると、テーブルからペン立てまで、至るところアンティーク風の花柄や、カントリー調のかわいらしい絵柄があふれている。たくさんの色が用いられているのに決して雑多ではなく、限りなく優しい印象だ。

  カマボコ板もペインティング

 ブリキ製品(トール)をはじめとする日用品に、絵や模様を描く「トールペインティング」。奈良さんが、トールペインティングに出会ったのは十年前。通信販売のキットを使って、自己流で描いていたが満足できず、本格的にジャパンカントリーアート講師・高橋奈津美さん(大曲市在住)に師事。「覚えたての頃はカマボコ板にも絵を描いてました。ものを見ると描きたくて」と、当時の熱中ぶりを笑う。

  色づかいは感性 

 素材となるものは、ブリキ製品に限らず、板材やガラスびん、空き缶など幅広い。「リサイクルに一役買うのも魅力」なのだとか。素材が木の場合は、まずサンドペーパーで表面を磨く。下地を塗った上に、トレースした図案(絵柄)をカーボン紙で写し、アクリル絵の具で丁寧に描き起こす。微妙なグラデーションや、細かい線の連続。相当なテクニックが要求されるのかと思いきや、絵心がなくても、基本的なストローク(筆の動かし方)さえ覚えれば簡単に描けるという。
 机の上には、奈良さん愛用の絵筆とおよそ二百色の絵の具がずらり。花びらは平筆で、草のつるは面相筆で…。百本もの筆を使い分けながら、奈良さんは素材に色をのせていく。「大変なのは色をつくること。図案を見て、この絵にはどの色が隠れているのかを推理するんです。いつも本とにらめっこ」。色の使い方に感性が出る。それが、トールペインティングの最大の魅力にして最大の難点でもある。


  優しい気持ちになれる

 見よう見まねで始めた趣味も、今では講師という肩書きを持つに至った。「家事の合間に自分のペースでやってきただけ。充実感があるし、何よりも優しい気持ちになれるんです」。部屋を美しく飾ることで、家の中を明るくしたいと話す奈良さん。トールペインティングは、その魔法をかけるステッキだ。