「花のギャラリ松山」布花作家
 松山 貞子さん Sadako Matsuyama
秋田市八橋

 「静」の花と「動」の花。「動」の花が生花だとすると、松山さんが作る布花(ぬのばな)は「静」の花だ。布花には、散るからこそ美しい、という動的な花の持つ魅力とはまた別の迫力がある。くすんだ色合いで、永遠に静かに咲き続ける。そんな、ある種の懐古主義的な美しさをたたえる布花は、松山さんのイギリスアンティーク風のお部屋にとてもよくマッチしている。

  大人っぽい色合い

 松山さんが布花に魅せられたのは、三十年ほど前。花と絵が好きで、それまではアートフラワーを制作されていた。「でも、いつも色合いがしっくり来なくて。ある日、銀座のブティックに飾られていた布花を見て、これだわ!と衝撃を受けました」。
 できるだけ本物に近い色を表現するアートフラワーとは違い、布花は渋みのある色合いが特徴の「大人っぽい花」。アンティークの薫りを好む松山さんの感性にぴったりだった。早速、第一人者として有名だった故山上るいさんに師事、日々制作にいそしんだという。

  「花づくり」は繊細な作業 

 花の造作はとても細かい。作品を見ると、花びらと花芯、がくなどが複雑に組み合わさり、それでいて茎へと自然につながっている。制作過程は、予想どおり根気のいる繊細な作業の連続だった。
 「中盤までは、けっこう地味な作業なの。創る花に合わせて素材を選び、花びらや葉の型通りに切り抜いたり、染色したり…。ただ、花の雰囲気を決めてしまうので、色のグラデーションには一番気を使います。そのパーツを、電気コテで丸みや葉脈の模様をつけて、組み合わせ始めるととても楽しくなってきます。形になって見えるから。あっという間に時間が経ってしまうんです」。 

  美の瞬間を咲く花

 いつまでも枯れない花、というより、美の瞬間をとどめる布花。創作のインスピレーションは尽きず、昨年十二月には個展を開催した松山さん。コサージュやウエディングブーケの制作を頼まれることもしばしばとか。ふと見上げると、廊下に渡したポールには、つくりかけの花たちが吊るされ、静かに「開花」を待っていた。