織物作家 藤原 たかさん Taka Fujiwara 秋田市将軍野

 「裂織(さきおり)には手拭いが一番いいんですよ」
 使いふるしてこなれた手拭いはビリビリと小気味よい音をたてて裂け、見る間につなぎ目のない二十五mほどの裂糸になった。裂織はすべて平織で行われるが、縦糸のかけ方と踏み板の操作によって模様を浮き沈みさせることもできる。設計図どおりに縦糸を機(はた)にかければ、あとは織るだけだ。 

予期せぬ模様の面白さ

 「ほら、歌舞伎役者の手拭いがこんな模様になるんですよ」
 杼(ひ)を横に滑らせて、織りすすむうちに手拭いの模様の色がまったく別の模様を描いていく。色と模様のある布の方が、いい裂織模様になるという。あまり色彩のない布は染めて使っている。
 「元の模様とは似ても似つかぬものでしょう。この模様は計算してできるものではないんです。まったく予期しなかった模様が生まれる。そこが面白いんです」 絹などの薄い布は織り目も細かくなるので時間がかかるが、木綿やウールなら二時間でコースターが織れるという。


障害者の自立の手助けに 

 藤原さんの本来の技術はホームスパンである。ホームスパンとは手紡ぎの布のことで、羊の毛を染めて紡いだ糸を使う。二十年前、家庭科の教師を定年退職した翌月から盛岡の工房に通って習得した技術である。それが、裂織をやるようになったのは、工房こすもす(小規模作業所)の方々から「通所者たちの自立に向けて何らかの技術を身につけさせたい」と相談されたことがきっかけだった。四年前のことである。
 工房こすもすの通所者たちはすぐに裂織に夢中になった。そして、工房で一緒に作業している母親たちも。今では販売できるほどに上達したという。

ボロが一転、素敵な布に

 最初は通所者たちに教えるためにはじめた裂織だったが、藤原さん自身も裂織のとりこになってしまった。素材も布だけでは飽きたらなくなって、竹やトウモロコシの皮を使うこともあるという。廃棄される運命の着物が、裂織にして仕立てれば素敵なベストにもなる。
 ゼロのものを一〇〇にする「痛快、愉快」な快感は裂織をやった人にしかわからない、と古布の束を持って楽しげに語った。