シャドーアート作家 廣川 律子さん Hirokawa Ritsuko 
秋田市旭川新藤田

 遠目だと普通の絵のように見えるが、フレームの中をのぞき込むと「飛び出す絵本」のよう。同じ絵がパイ生地のように何層にも重なり、浮き出ている。モチーフは、アーリーアメリカン調の風景画であったり、ボタニカルアート(植物画)であったり、その造作はとても繊細。一体どんな風に出来ているの?じっと、見入ってしまう。 

  ミーツ・イン・アメリカ

 まるで引力が働いているかのように、見る人を引きこむ「シャドーアート」。3Dアート、シャドーボックスとも呼ばれ、見る角度によって表情が変わり、平面では味わえないおもしろい味をかもし出している。2年間のアメリカ滞在中、広い白壁の空間を演出するインテリアに興味を持った廣川さんは、シャドーアートに出会いたちまちその魅力に引き込まれてしまった。「何よりも手づくりの作品で壁を飾れることが嬉しいですね」。現在のご自宅にも、至るところに作品が掛けられており、ギャラリーのよう。それらは眺めるたびに創作時の思い出を語りかけてくるそうだ。

  フレームの中の世界 

 種明かしのために、廣川さんはフレームの内部を見せてくれた。何層にも重ねられていた絵の素材は「紙」。なんの変哲もないポストカードだというが、仕上げのつや出しが、紙を陶器の質感に変えている。紙の間にはさまれ高さを出していたのは、シリコンボンド。「ポストカードは4枚から7枚程つかいます。カッターで紙を切って重ねていくだけですので、初めての方でも二時間でできる作品もありますよ」
 好きな絵柄のカードを見つけたら、まずは絵のどの部分が一番上になるのかを考えるそうだ。この作業を、廣川さんは「絵との対話」と表現する。一枚目のカードは背景となるので手を加えず、その上に絵柄全体をくりぬいた二枚目のカードを乗せ、さらに立体的に見せたい部分だけ切り抜いた三枚目、四枚目のカードを重ねていく。飛び出して見える部分の層ほど厚くなっているというわけだ。「平面から立体に戻していく、この作業が面白いんです。好きなモチーフはボタニカルアートですが、花びらに丸みをつけたり、葉の重なり具合などを意識して生き生きとした表情が出るようにしています」

  素敵な時間を重ねて

 十年前の帰国時は、秋田でのシャドーアートの知名度はまだ低く、個人輸入で材料を購入しながらの創作活動だったという廣川さん。シャドーアートが耳目を集めるようになった最近では、背景に使う素材を布や木に変えてアレンジしたり、表面のコーティングを工夫したりと、より精度の高いオリジナル作品づくりにこだわっている。「一枚の絵に息を吹き込んで、ふくらませて重ねて。素敵な時間も重ねているのかもしれません」。作品展を開催しながら創作活動を楽しみたいという廣川さんの夢も重なっているようだ。