カゴに並べられたピンクや緑、黄色の毛糸は深みとあたたかさのある色あいだ。
どれもリンゴ、桜の木、クズ、藍、タンポポなど、草木で染めたものである。
「手のぬくもりをそのまま表現してくれるから何より羊の毛糸が好きです」という。

手編み作家 鈴木美保子さん Mihoko Suzuki 
秋田市飯島字飯島水尻

自分の事をはじめたい

 そもそも鈴木さんが編みものをやるようになったのは母の影響だった。子どもの頃、母が編んでくれたセーターには母の手のぬくもりがあった。「子どもはいつか手を離れていく。私も毛糸で何かをやろう」。そう思ったのは二十年ほど前のことだった。
 草木染めは田中ゆきひと氏に師事し、その後、京都の川島テキスタイルスクールで集中講座を受け、羊毛やさまざまな自然素材の紡ぎ方を、東京の専門学校では身につけるニットに限らず、アートとしての糸の使い方・発想を学んだ。
 「最初の頃は手づくりなんだから、ボコボコの糸でもいいなどと思っていたのですが、オーストラリア人の先生からは細い糸をきっちり紡ぐことで美しい手編みができるのだと教わりました」。
 ニュージーランドやオーストラリア、イギリスなどでは手編みは今も伝統工芸として大切にされている。そういう伝統の手編みを残している国を訪ねて、染めや編み方の研究もした。


季節の草花で染める


 ひと口に羊毛といっても世界の羊は百種類もあり、用途によって使う毛も違ってくる。編む前に毛を選び、染めておかなければならない。原毛をブラシで梳いて、糸車にかけて紡ぎ、そうしてできた細い糸を二本撚り合わせて毛糸ができ上がる。染めずに羊の原毛の色を活かす時もあるが、ほしい色を出すためにはその季節に手に入る草木を使う。花や木を煮出して作った染液と媒染が生み出す様々な色の、なんと不思議なことか。秋田は豊かな自然に囲まれている。その自然の贈り物を活かし、自分自身も「自然」をテーマに編みたい、といつしか思うようになった。

物の大切さを教えたい


 毛糸染めが終われば、いよいよ「編む」という仕事に入る。すべてが手作業だ。編み方も既成にこだわらず個性を活かすことを優先させる。それが自然からもらった色を活かすことになるからだ。平成元年からはじめた「工房ぬくもり」の教室でも、簡単に編めて、個性を大切にする作品づくりの指導を心がけているという。「自分を表現できて優しい気持ちになれる手編みこそ、地域に必要とされているのではないか」。長年、生涯学習奨励員を続けてきたことも、教室を開く大きな原動力となった。
 「私が持っているものは何でも惜しまず教えたい」と、日々繁忙の鈴木さんだが、これからは地域の子どもたちにも手仕事の楽しさ、そして物の大切さを教えていきたいという。