空に浮かぶアート
ピンクのまあるいバルーンに、目鼻のついた「クマさん」。誰かが歩くと空気がゆらいで、クマさんも一緒にその体をゆする。フワフワ、ツンツン、なんだか笑っているみたいで楽しそう。考えてみれば、バルーン自体で何かを形作るというのは、今までになく新鮮でポップな感覚だ。藤井さんはその「バルーンアート」に魅せられたひとり。「きっかけは、七年前にたまたま見たバルーンアートの記事。子どものころの風船への憧れがよみがえってきました。それに、ちょうど“人生の後半戦”を目前に控え、人とは違う何かをやりたいと思っていた時期だったんです」。すぐさま東京の教室に申し込み、秋田から通った。最初は「映画の中に出てくる飾りのようなものかしら」という認識しかなかったと笑うが、一九九七年にはアメリカのバルーンメーカーが主催する、プロのバルーンアーティストの資格認定(CBA)も取得。今では、ウィンドーディスプレーや結婚式場のデコレーションも手がけるほどだ。
「花より生モノ」
フワフワゆれるかわいらしいオブジェ。でも、それを形にする作業は、軽やかなイメージとはうらはらに重労働だ。使うのは、丈夫でカラフルなアメリカ製のバルーン。ヘリウムや空気のボンベと、バルーンを結びつけるパイプ。道具だけを見るとどこかの工場のようだが、ひとつ、ふたつとバルーンをふくらませ始めるとだんだん楽しい予感が満ちてくる。
最も気を使うのは、いつどこで作品をディスプレーするかということ。「つくりおきができないので、ふくらませるタイミングを逆算しておかなければならないんです。割れることも多々ありますし、バルーンは花より生モノなんですよ」。ちなみに、表紙の「カニさん」に使用したバルーンは、大小あわせて約千個。制作はまる三日、きれいな立体を表現するために、適材適所に大きさの異なるバルーンを配置し、ラインにも気を配った力作である。
笑顔を運んでくる
最初は「たかがフーセン」とはすに構えていた堅物おじさんも、バルーンを手にした途端ニコニコ顔になる、それがバルーンの魅力と藤井さんは言う。「夢があるというか、子ども時代に戻れるというか。バルーンがあるとみんな笑顔になる。フンワリ浮かんでいるのを見ていると自分も癒されます」。そこにあるだけで、なんだか雰囲気がなごんでやわらぐ存在。ゆったり漂う様を眺めていると、いつの間にか心の荷物も空に解き放たれている。
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