見つめていると、ガラスと同じ色の気持ちになってくる。
何かを語りかけてくる。
光がこんなにも雄弁だとは、
小野さんのステンドグラスに出合うまでは知らなかった。

ステンドグラス小野工房主宰 小野 確美さん Kakumi Ono
秋田市千秋中島町17-8

作者を語るステンドグラス

 ランプに、かちんとスイッチを入れる。すると、それまでにぶく沈黙していたガラスがぱっと色を得て、とりどりのあかりを放ちはじめる。暗い森に光がサッとさし込んだ時のような劇的変化に、思わず声を出して感激せずにはいられない。モザイクのようにちりばめられたガラスは、光を色に変え、色を色気に高め、見る人を魅了する。ふと、普段は寡黙なのに、内に秘めたる情熱は人一倍…そんな人物像が頭をかすめた。そういえば、このステンドグラスは、作者である小野確美さんとどこか似ている。

想像力が光をつくる

 「作ってみたいという気持ちが作らせるんですよ」。ステンドグラスはまったく独学、という小野さん。三カ月に二日しか休みがなかったという「企業戦士」を廃業後、エッチングガラスを始め、並行して勉強していたステンドグラスに傾倒。本業のかたわら、ランプ制作に熱中して十二年になった。「光が入ると途端に、その姿を生き生きと現すのがガラスの魅力。その色や模様は無数にあって、さらに光の種類によってもイメージが変わるので、制作には想像力が必要です」。小野さんが踏襲する工法は、ガラス片を銅テープでつなぎハンダ付けするティファニー式。どんなデザインで、どんな色のガラスを組み合わせるかに、思考の八割方が割かれるそうだ。

「物語性」にこだわる

 小野さんの作品は、幼いころの思い出や、秋田の春夏秋冬をテーマとしている。あくまで自分の中から生まれる「物語」を大切にしたいからだという。ここに「一九五九年の夏」(写真の青いランプ)という作品がある。深いブルーを基調にしたランプは、八歳の記憶を掘り起こしたもの。それは、ある朝の光景だ。のぼり藤の葉にイチジクの木から朝露がこぼれ落ちて、しずくが表面張力で光っている。なんて美しいんだろう…。その感動が鮮やかに表現されている。
 一方、「いつからかかっているのか分からない」という課題作もある。テーマは冬。表現したいのは、冬の厳しさや、かた雪のイメージ。それに、春を予感する土のイメージを組み合わせたいのだという。ピンとくるデザインが浮かぶまでは、何年も丹念に、真摯にスケッチを描く日々。ひとすじの光がさしこむ日はいつだろう。それでもけして妥協できない純真さこそが、小野さんの作品に漂う最大の魅力である。