「古布」を使った細工ものが流行っている。
骨董店でも古い端切れは人気があり、すぐに右から左と売れてしまうそうだ。
しかし、佐藤さんが小物作りに使う布は店で求めたものではなく、
「うちの蔵」から掘り出してきたもの。
なんともうらやましく、そしてどこかホッとする話である。

古布細工 佐藤 智恵子さん Chieko Sato
秋田県雄勝郡稲川町字稲庭185番地
http://www.h5.dion.ne.jp/~kominka/

古い布がいとおしい

 「こんにちは」と戸を開けて奥へ進むと、まず大きな囲炉裏が客人を迎えてくれる。次に、天井の太い梁、薬箪笥、時折ボーンと響く柱時計。この築百五十年の町屋が、佐藤さんの暮らす家だ。そんな重厚さを感じさせる家の茶の間にあって、フッとほほえみを誘うのが佐藤さんの作る古布の小物たち。壁掛けや花入れ、手提げ、人形など、どれもこれも、時間を経たものだけが醸すこなれた色合いと、どこかユーモラスで素朴な味わいがいい。「最近まで、古いものにはまったくといっていいほど興味がなかったんですが、蔵を整理している時に、行李(こうり)や長持(ながもち)にきれいに納められている端切れを見たらいとおしくなって」。何でも使い捨ての現代とは対照的に、どんな小さな端切れでも大切にした時代。先人のつつましやかな美徳は、佐藤さんの心のドアをノックしたようだ。

くたくたの野良着で作る

 この布きれで何か作ってみよう― そう思い立って、見よう見まねで小物を作りはじめたという佐藤さん。「針を持ち始めたのはごく最近。手先も不器用で、まだまだ下手なんですが『案ずるより産むが易し』という気持ちで作っています」。内蔵にも外蔵にもどっさりあるという古布の中でも、作品に使いやすいのは着古した野良着。「藍のものに絣、丹前地、モンペなど、昔の人たちが使った作業着はくたくたになっているから手触りもやわらかいの。それに、この色合いがたまりません。ツギのあたっている部分があっても、そのまま作品に生かすようにしています」。この世にひとつしかないオリジナル、それも古布のよさだろう。

祖先の着物を活用

 同居している九十三歳の義母・美代さんとは、明治・大正時代のアルバムを見ながら「この作品に使われているのはこの着物だね」と話すこともあるという。ご先祖様の着物が、代々住む人の手によって新たに生かされ受け継がれていく。そう考えると、佐藤さんの古布細工は、巷で流行している細工ものとは少し違うところにあるような気がする。「古いものの良さが最近やっと分かってきました。よく残してくれたなあと思います」。
 これからは、四季のタペストリーなど「うちの生地」を使ってもっと大作にも挑戦してみたいという佐藤さん。布を通して昔に思いを寄せる、これもひとつのご先祖孝行かもしれない。