私たちはふだん、多くの化学製品に囲まれて暮らしている。
けれど、ふと緑が見たくなって山へ車を走らせることがあるように、
心のどこかで自然のぬくもりを求めずにはいられない。
古材の持つやわらかな手ざわり、美しい木目、唯一無二の味わい…
三浦さんの作品を見ていると、やっぱり「木はいい」と素直に思う。


木工房 U-CRAFT 三浦 豊さん Yutaka Miura
秋田市山内丸木橋 http://www8.ocn.ne.jp/~yuta268
*体験工房、ものづくりボランティア教室も開催しています

あるがままに木を生かす

 三浦作品第一の特徴は、独特の「まるみ」にある。たとえば、一枚板をくり抜いてつくったという額縁。フレームと呼ぶには厚ぼったいほどの印象だ。箱ひとつとっても、栗のようにコロンとした形状。「私の手がまるいからね、作品もそうなるんでしょう。それに『はじめにつくるものありき』ではないんです。木はそれぞれ形も厚みも違うから、デザインは実物を見たあと」
 木工は独学という三浦さん。ルアー釣りの竿づくりをきっかけに、日曜大工が工房を構えるほどの腕前になった。作業場には、電動ノコギリ、ドリルといったひと通りの機械はあるものの、最終的にはノミや彫刻刀による手仕事。作品独特のおもしろみとあたたかさは、小さいころよく木でおもちゃを作って遊んだという、手の記憶が生み出すものかもしれない。「今は社会全体が『使い捨て』。手づくりして初めてモノに愛着が持てるようになるし、創造力も養われるのに」と、時代を憂う三浦さん。自分だけの自由なかたちでいい─既製品に浸かっているうちに、そんな楽しさもすっかり忘れていたことに気づく。

自然を尊び、一から手づくりを

 さて、三浦作品を語るには「アウトドア志向」というキーワードも欠かせない。釣り道具やカヌーのパドルをはじめ、なんと三浦さんは家まで手づくりしてしまった。それが表紙のドームハウス。森の中に突如出現するどんぐりみたいな家は、広さ3坪ながらも、秋田杉仕上げの立派な居住空間。ドームを形成する三角パネルがすじかいの役割を果たすので、かなりの強度があるという(最大60坪まで大きくできる)。もとは、アメリカ生まれの構造体だが、パネルを張り合わせる角度などはすべて三浦さんが新たにはじき出したもの。家も自分の手でつくりたいと願っていた三浦さんにとって、ドームハウスは夢の城なのだ。
 今ではここで作品を展示したり、鳥の声に耳を傾けたり、木に囲まれ、自然に心を遊ばせる日々。でも、三浦さんの夢はこれで終わらない。催事を行ったり、あちこちにドームハウスを増やしたり…手づくり志向派の輪を広げようと目論んでいるのだ。「人間は、最終的に自然素材に回帰すると思うんです。自然を尊び、一からモノづくりを楽しみたいという人がいれば、僕はいつでもお手伝いします」
 ちなみに、このドームハウスは一人でも建設可能。もしあなたが、木のぬくもりにつつまれた暮らしを手づくりしたいとお考えなら、三浦さんの工房のドアを叩いてみるといい。