それは、波打っているようであり、
風にそよいでいるようでもあり。
美しい糸が織りなす色のハーモニーは、
布になって、印象となってゆれる。


齋藤 るみ子さん Rumiko Saito
秋田市桜ガ丘

自由奔放な布

 大きなスウェーデン式の手織機。経(たて)の糸と緯(よこ)の糸、それらが直角に組み合わされて、少しずつ布が織り出されていく。ところが齋藤さんの手にかかると、その生真面目な繰り返しは小休止。経糸が途中からなくなったかと思えば、緯糸があっちからそっちへ掛かっていたりとまるで奔放。いったいどうなっているの?視線は、布の上を縦横無尽に踊ってしまう。この、ところどころ「たわむ糸」が齋藤さん独特のスタイル。「緞帳(どんちょう)みたいって言われるんですけど、糸の流れの美しさを追求したらこうなったんです」

糸の美しさに魅せられて

 染めて織る」だけに、齋藤さんは織りばかりではなく、糸の美しさも大切にしている。茜色に亜麻色、萌黄色…作品に使う絹糸は、自分の手で染めたもの。
 「糸を織っていくでしょ。すると、ぎゅっと織りこまれた部分では光沢が消えるし、織りこまずに目を休めた部分には光沢が出る。同じ糸を使った布でも、違う表情が見えてくるのよね」
 織物に、模様の美しさや斬新さを追求する人は多い。しかし、糸そのものを美しく表現することに目を向ける人はそういない。太めの糸を使っているわりには一作品に二カ月かかるというのも、一見しただけでは分からないような、繊細で複雑な仕事がたくさん施されているため。暮らしの中で拾い出されたテーマを、糸の魅力を生かしながら表現したい。表紙作品(右側)のタペストリー「山燃ゆる」もそんな風に生まれたものだ。


目標をもった作品を

 染織を始めて約二十年。作品同様、かろやかな雰囲気を漂わせる齋藤さんだが、数年前「基礎をきっちり覚えたくて」秋田公立美術工芸短期大学・工芸コースを専攻したという、エネルギッシュな一面も。家事と学業の両立はたいへんだったけれど、得たものも大きかったと振り返る。今や、大作も凝った模様もお手のもの。若い世代との交流も活発になり、年に一度のグループ展も共催するようになった。
 「教室を開いているわけでもないので、目標をもった作品づくりをしていきたいですね。何より、好きなことを続けさせてくれる家族に感謝」。そのあたたかな気持ちこそが、齋藤さんの布を彩る、見えない糸なのかもしれない。