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即興で雰囲気構成 花を生ける場と向かい合う。それぞれの花が持つ個性を瞬時に感じ、浮かび上がるインスピレーションにより即興で全体の雰囲気を構成する。事前にデザイン画を作ることはない。瞬間的に感じ取ったすべてで花を生ける。西洋から入った文化であるため、欧米風のスタイルが主流のフラワーデザインのなかで、それは「和」の要素を含み、どこかなじみやすく温かい。見つめていると、秋田で栽培された花や、サシボ、アジサイ、フキノトウなど道端や原野で見かける身近な植物がデザインの一片として存在していることに気付く。外を歩いていてふと目に留まった草花を摘み、生けることも多いという。 「63年間育ててもらった秋田への思いは強い。その思いがあるから作れるデザインがあるし、ここからしか発信できない美があると思うんです」 この日、あべさんの姿が一瞬見えなくなったと思ったら、枯れてカラカラに乾いてしまったアジサイの花を手に戻り、見事に他の花々と組み合わせて一作品を作ってしまった。色あせたアジサイは命がよみがえったような柔らかな表情を浮かべていた。 自分なりの「秋田」創る デザインの中に秋田の要素を取り入れるこだわりは、花にとどまらない。例えば、雄和町に窯を構える陶芸家高橋和起さんの作品に花を生けること。高橋さんとの出会いは、あべさんが高橋さんの窯にふらりと立ち寄ったことがきっかけだった。陶器の素晴らしさに創作意欲がわき上がるのを感じて、その場で情熱を伝えた。以後、秋田生まれの陶器とフラワーデザインのコラボレーションが始まる。「花材だけでなく、花器も含めて全体が醸し出すすべてがフラワーデザイン。素材それぞれが持つ美しさをバランスよく組み合わせてあげること」。単にトレンド的な要素を追求するのではなくだれが見ても素直に受け入れられる美を心掛け、「秋田」を自分なりに創造している。 「一葉一花(いちよういっか)」を目指す 「さて、その場で即座に浮かび上がるというデザインイメージ。アイデアは一体どこからやってくるのか。その答えは創作に対する姿勢にある。「作品に自分自身満足しないことかな。今まで一度も満足したことはない。壁にぶち当たったときは基本に帰る。基本があってこそ創造が膨らむんです。それに、落ち込んでも創作に夢中になっているうちに元気になれる」 目指すは「一葉一花」。百本のバラより一本のバラが持つ美しさがあるように、素材の美しさをシンプルな形でどれだけ引き出せるかを課題とする。また、絵と花を組み合わせた新しい表現方法にも挑戦。自己流とはいえ、県展に何度か入賞するほどの腕前を持つ油絵が花とともにリアルな秋田の原風景を描く。秋田ならではの美の神髄を追求し、表現する意欲。土地への愛情あふれるメッセージは、人々の心に新鮮な刺激を与え続けている。 |