写真:仏炎苞(ぶつえんほう)…形や炎が、水芭蕉や座禅草(座禅を組んだだるまだいし
に見立てて名付けられた)のように花を包む葉に似ていることから名付けたろうそく。

手作りろうそく作家 小林 順子さん Junko Kobayashi
茶房「和茶さくらさくら」 大館市幸町15-6 TEL.0186-42-7123

  元懐石料理店をそのまま使う小林さんのお店。
月日と共に色合いを増した和箪笥や囲炉裏風のテーブルなど、
味わいある古民具がさり気なく置かれている。
窓の奥には日本庭園。柔らかな木漏れ日がテーブルの所々に差し込む。
日が沈んだら、店内の照明は小さな電球だけ。代わって、手作りのろうそくが室内を温かく照らす。


「灯す」ということ

 手作りのろうそくに灯された明かり。周囲に浮かび上がる影が幻想的に揺れる。灯火のある空間は、時間の流れが止まったような異空間。大抵は、訳もなくその灯火に見入ってしまう。日々を忙しく過ごす人、イライラしている人、小林さんの手作りろうそくの明かりは、疲れた心を優しく迎え入れ、じんわりいやす。
 「一日のことをふっと忘れる時間を持って欲しい」
 明かりを楽しむ時間に添えて差し出す和茶。静かな時間が流れる、このひと時を小林さんは「灯りのおもてなし」と呼ぶ。
 ろうそくを作り始めたのは、五年前の身内の死がきっかけだったと話す。どこにもぶつけようのない悲しみ、いつもと同じことをやってもうまくいかない感覚。深く落ち込んでいたとき、ふらりと立ち寄ったスナックのカウンターに置かれたろうそくの明かりにいやされたという。
 「次の日には、『作ってみよう!』と。突然の思いつきが、まさかこんなに楽しいなんてね」
 作り方は、自己流。「深く考えて作ったりはしないのよ。全部、思いつきなんだから」と、笑うが、ロウの板をうず巻きみたいに巻いたもの、彫刻のように造形的なものなどが、思いつきから生まれたものだとは信じがたい。中には、野菜のカブを使って型を作ったものもあるというから。


時を「遊ぶ」

 小林さんは、時間を「遊ぶ」達人でもある。ろうそくを手作りするかたわら、明かりの楽しみ方にも工夫を凝らす。廊下に一直線にろうそくを並べて火を灯し、月とろうそくの明かりだけで楽しむお茶会を開催。他にも、玉露を入れるときには、時間を計る道具としてろうそくを活用したり。ろうそくの明かりが消えたら玉露はちょうど飲み頃になる。
 「こういう『遊び』は…」
 こうした時間について話すとき、小林さんが、さり気なく使う「遊び」という言葉にも、小林流のセンスが表れる。作品の展示会も、七夕、クリスマス…というように季節の行事ごと。四季折々に合わせて、明かりを灯す。急ぎ疲れた心が、小林流の「時」に惹かれるのは、時を急ぐ現代の文化とは異なる、季節ごとの美を大切にする心や、雅趣に富む、ゆったりした世界がそこにはあるからだろう。
 世界にたった一つしかない手作りのろうそくに火を灯すぜいたく。時の「遊び」とともに、ロウは静かに溶けていく。