武田さんは、自然のものだけが持つパワーや独特の個性を生かすフラワーコーディネーター。
澄んだ空気を思いきり吸い込んだときのような清々しい空間を与えてくれる作品は、
さりげないのに存在感に満ちている。

フラワーコーディネーター 武田 寿子さん Toshiko Takeda 能代市
アトリエ リーフ(ショップ&スクール)TEL.0185-54-7366

個性と向き合う

 ファッションブランドのショーのステージ、テレビ番組のタイトルバック、テレビCM、雑誌など華やかな舞台でディスプレー。武田さんは、かつて東京の第一線でフラワーコーディネーターとして活躍していた人物だ。郷里の能代市に戻って三年あまり。現在も東京に教室を持ち、月に一度は東京と秋田を往復する。こんな経歴を聞けば、イメージだけが先行して派手やかな作品を想像するかもしれない。だとしたら、予想は心地良く裏切られることだろう。作品の一貫したテーマは、型にとらわれないナチュラルな感覚のアレンジメント。
 「扱うのは自然の物。細かったり、太かったり、曲がっていたり。それぞれのさまざまな表情を持っている花材の特徴は個性として活用する。仕上がりの型は後からついてくるもの」と言う。アレンジは至って自然に。どれ一つとして同じ物がない自然の物を扱うからこそ、教室の生徒にお手本を示すこともない。
 「型がないから自由に表現できる。その人の作るすべてが個性でありセンス。最初は『難しそう』なんて話していた生徒さんも次第に花材の個性と向かい合うのが楽しくなるみたい」


植物のある生活を

 作品が生まれる時。一瞬の静寂が訪れて素材を手に取りみつめる先で、素材の個性との対面が始まった。素材を巧みに組み合わせて最後に全体を整える。わずかな出来事が、完成とともに空間の雰囲気は一変した。ほのかに感じる花の香りや明るい色彩。一足先に春がやってきた。こだわりとして緑の葉物も必ず取り入れる。花を囲む鮮やかな緑に、今はまだ待ち遠しい新緑の大地の様が胸をよぎる。
 「お花だけが目立つのではなく、置く場所に溶け込んでこそ本物。例えば生活の何気ない場所にでもいい。自然のものは人間にとって安らぎを与えてくれる不可欠な存在。気軽に側に置いて欲しい」
 花まわりの小物にもひと工夫して花や空間を際だたせる。
 シンプルなキッチンに置かれたバスケット。そこに並ぶフルーツや野菜までもが感性豊かにアレンジされていたり、お風呂場の一角に花や緑がちょっと置かれてあったり。武田さんの発信する植物のある生活は、置く場所までもがさりげない。「深く考える必要はない。道ばたの植物でも観葉植物でもいい。とにかく生活に花や緑を取り入れてうるおいを」と言う。
 ─さあ、何を飾ろうか。