他のものと混じり合うことを嫌い、割れやすいガラスという素材。
伊藤さんは、手間と時間をかけてゆっくりとガラスに向かい合い、
作品として輝くすべを注ぎ込む。

癒ガラス胎七宝作家 あとりえAndante主宰 伊藤 美果さん Mika Ito 大仙市
あとりえAndanteホームページ http://www.andante22.com

輝きをはぐくむ時間

 窓から入り込んだ自然光を受けて、透き通ったガラスの内側に細やかな装飾が浮かび上がる。刻みこまれた底模様、表面に焼きつけられた色とりどりの釉薬(うわぐすり)、図柄を形取る金や銀の繊細なライン。完成したガラス胎七宝を前に、伊藤さんは、
 「いとおしいです。誰かの手に渡るときは、お嫁に出すような気持ち」
 と、話す。他の素材との融合を嫌い、温度管理やケアを怠るとすぐ割れてしまうガラスに、七宝の技法を合わせるには手間と時間がかかる。ベースのガラスに丁寧な装飾を加えて、ガラスの粉の釉薬を載せる。それを電気炉で加熱して溶解するなどの一連の作業は、それぞれ一日がかり。例えば、焼く作業の日は、熱を冷ます時間を含めて、それだけで一日が終わってしまう。小さな作品でも完成まで最低一週間。竹ぐしやピンセットを使った慎重を極める作業もあれば、機械のごう音響く、大工仕事のような大掛かりな作業もある。
 ガラスは気まぐれ。この世話の焼ける存在感が、より一層、思い入れをかきたて、温かみのある作品を育てている。

可能性を生かして

 ガラスという素材は、手のかかる分、表現の可能性に富んでいる。伊藤さんのガラスフュージョン(ガラスと何かを融合すること)の枠は、七宝にとどまらず、和紙や明かりを使った作品も誕生した。また、飼っている猫をモチーフにした、通称「猫シリーズ」の愛くるしいニャンコたちの姿も猫ファンにはたまらない。
 「モチーフの枠を意識せず、作品づくりの中でわいてくるイメージに添い、自由に創作していたら心の中にあった、『人間としてどうあるべきか』という枠も外れて気持ちも軽くなった」
 自由だからこそ、いろいろな人の作ったさまざまなものを見ることも大切だという。舞台を見たり、絵本を読んだり、一見、ガラスとは無関係に思える行動の積み重ねも、ひらめきの源になっている。
 「自分がまだやっていないところに、どんどん足を踏み入れていきたい」
 曇りのない、創作への前向きな思いは、晴れ晴れと澄んだ空に似ている。次はそこにどんな光が差すのか、毎年変わる作品テーマが楽しみだ。