呼吸しているような胸。柔らかそうな羽毛。飛び立つ時を待っているかのような翼。
リアルな質感で、生きている鳥を見ているような錯覚さえ感じさせるバードカービング。
佐々木さんは、「自分の手でリアルを追求する面白さにはまってしまった」と話す。

カービング アーティスト 組木工房 佐々木 隆一さん Ryuichi Sasaki 仁賀保町
組木工房のホームページ http://www.chokai.ne.jp/kumiki/
佐々木さんの教室 毎月第2・第4水曜 PM6:30〜PM9:00 組木工房にて

手探りからの挑戦

 佐々木さんは、木そのものが持つ色や木目を生かした半立体的なアート「インターシア」を制作できる、国内ではまだ珍しい存在。インターシアの制作を始めたきっかけには、ある鳥の彫刻との出合いがあったという。今から十五年ほど前、佐々木さんは、新しい家に移り住んだ記念になるインテリアを買おうと出掛け、店先で躍動感あふれる木彫りの鳥に出合う。雑誌で調べ、それが木を彫って彩色して作る鳥の彫刻、バードカービングであることを知る。
 その起源は、インディアンたちが水鳥を捕獲するためにおとりとして作った「デコイ」にあるとされる。本場アメリカでは世界レベルの大会も開催されるほどだが、日本には二十五年ほど前に、はく製のために犠牲になる野鳥を少しでも減らそうと野鳥保護の目的で紹介された。「自分も作ってみよう」と決意した佐々木さんだったが、当時、国内でバードカービングの認知度は低く、制作している人も少数。インターネットなどの情報網も普及しておらず、作り方を教えてくれる人はもちろん、どんな道具を使うのかも分からない状態。制作の楽しさを分かち合う仲間もいなかった。

不可能を可能にしたい

 佐々木さんは、英語で書かれたお手本を参考にひとりで制作を開始した。苦労や失敗を重ねながら、ただの角材が少しずつリアルな鳥の姿に変わっていく過程や、完成したときの達成感に喜びを感じながら作品数を増やしていった。
 「実現できるか分からないことにトライして、ひとつのものが完成した瞬間、また次の不可能を可能にできるような気持ちになる」 
 制作には三ヵ月から半年を費やすが、時間や手間が掛かる分、自分で自分の作品にほれ込んでしまうほど思い入れが深くなるという。限りなく本物に近く、さらに質感や動きの描写にもこだわり、飾り物として美しく。佐々木さんは今、この面白さをもっと多くの人と分かち合うため、教室を開いて制作と指導、両方に力を入れている。