昨年四月、オーストリア・ウィーンで日本の工芸作品の展覧会「第一回ネオ・ジャパニズム特別展覧会」(オーストリア芸術協会主催)が開催された。小野さんは、「バラ」「ランとフルーツの盛り合わせ」の二作品を出展、オーストリア市民から高い注目を集めたことが評価されて「ウィーン市民賞」を受賞した。

ラペリスフラワー作家 花のアトリエ 主宰 小野 亮子さん Ryoko Ono 八郎潟町

「美」は心から

 ラペリスは、ラテン語で石を意味する「ラピス」から派生した言葉だという。かつて石は、永遠の象徴とされていた。「永遠の花」とも訳されるラペリスフラワーは、石の粉を混ぜた樹脂粘土を成形し、うわ薬を塗り重ねて彩色する工芸だ。粘土の伸びの良さを生かした精細な造形ができる。また、粘土を焼くことなく、陶器のような質感が出せる。「『生の花の美しさに勝る花はない』といわれることもあるが、創造の花は、目的や飾る場所に応じて自由に美しさを追求できる」
 小野さんは、これまで、生花のアレンジのほか、数多くの習い事を経験してきた。発酵させた小麦粉を材料に使う「パンの花」という工芸では、東北の第一人者であり講師を務めていた。ラペリスフラワーとの出合いは二十年ほど前にさかのぼる。「華やかで、豪華な印象に強くひかれた。さまざまな工芸を学んだが、これほど夢中になったものはない」という。作品は、本物の植物と見間違うほど写実的に作られているが、事前に対象をデッサンすることはなく、頭の中にあるイメージを基に粘土の成形を行うという。道具も至って少なく、主に使うのは金属の棒一本。
 小野さんは、よく旅に出掛ける。特に好んで足を運ぶのは、イタリア、フランス。飾らない風景のなかに、おしゃれ心があふれていて感性が磨かれるという。「『美しいものを作る者は、美しいものに触れる機会を多くつくらなければいけない』という言葉を聞いたことがある。表現力を高めるために、旅に出たり、音楽鑑賞や読書をしたりして自分を刺激している」。―ゆったりとしたクラシック音楽が流れていた。小野さんは、「美のない暮らしは寂しい。私は今、毎日が楽しい」と静かに微笑んだ。