カヌーは、主にカナディアンカヌーとカヤックに分類できるが、中田さんが造るのは、カナディアンカヌーでも秋田杉を使ったウッドカヌー。中田さんは、「米代川では昔、山で伐採した秋田杉を能代港まで流して運ぶいかだ流しが行われていた。ここで川を下るなら秋田杉だと思った。木の質もカヌーに合っている」と話す。

カヌービルダー 中田 賢一さん Kenichi Nakada 大館市猿間
カヌー工房NAKADA URL http://www.nakadacanoe.com/

 木々の緑と真っ白な河原、青く輝く水面の真ん中に置かれた秋田杉のカヌー。米代川の大自然に赤みを帯びた木目が映える。辺りには、川のせせらぎと鳥の声、木の葉の揺れる音が響いていた。
 中田さんが秋田杉でカヌーを造るようになってから今年で六年。カヌーに乗る楽しさを旅先の北海道で知ったことがきっかけだった。もともと大工だったことから同じ木工仕事のカヌー造りにはなじみやすかったという。現在はオリジナルカヌーと、カヌーの材料や図面をセットにした「手作りキット」の製造販売を中心に、カヌー体験のガイドとしても活動している。注文が入ってから一隻仕上げるまで約二カ月かかるが、製作の合間に米代川や十和田湖で自身もカヌーに乗る。「大館市内にも自然は多いが、カヌーに乗って出合う自然はまた違う。水面越しにアユの群れがぱっと散っていくのが見え、カワセミやヤマセミなどの野鳥と出合う。サギのコロニーを下から見上げることもある。カヌーに乗ると目線が低くなるから、自分が自然というものに受け入れてもらい、溶け込んでいくような感覚になる」。ヤマセミと合うときは特に面白いという。「五十メートルほどの距離に近づくと、彼らはこちらの気配に気付いて、『ケケケケ』と笑うような鳴き声で飛び去っていく。近づいては逃げられ…を繰り返すうちに、一緒に遊んでいるような気持ちになる」。一方、豊かな自然と共に悲しい現実にも出合う。「ゴミが目につく。頭上の木の枝に流れてきた古タイヤが引っかかっていたこともあった」。自然に対するマナー、水に身を預けることで学ぶ自然の厳しさ、命の尊さ、地元の自然環境を維持する責任など、カヌーを通して学ぶことは多い。中田さんは、「カヌーから得たさまざまなことを人に伝え、フィールドを広げていきたい。そして米代川の美しさをたくさんの人に知ってほしい」と話す。