雲の切れ間から雄姿を現す鳥海山と、高原に流れる澄んだ空気。陶器を作る田村さんと藍と草木で布を染める八柳さんの工房「とりみの山房」は、騒々しさとは無縁の静かな楽園のなかに建っている。

染 色 八柳 隆秋さん(左) Takaaki Yatsuyanagi
陶 芸 
田村 康之さん(右) Yasuyuki Tamura
陶と藍染め とりみの山房
由利本荘市矢島町
URL http://torimino.cool.ne.jp
常設ギャラリー「クラフトギャラリー・ミケ」
秋田市山王中島6-3 TEL.018-862-8516

 戸口の前で田村さんと八柳さんの愛犬、バティがしっぽを振る。二人が作業に取りかかるとバティは日なたぼっこか日陰で昼寝。目の前に鳥海山がそびえる絶景のロケーション、愛犬のいる作業風景。「ものを作るなら作りたいものを自然のなかで楽しく作っていきたい」。二人が鳥海高原に工房を建てたのは今から十二年前のこと。牧草地の丘に木を植えて庭や畑を造り、建物もほとんど自分たちで造った。工房の名前は、「鳥海」の古称「とりみの」から付けた。
 工房には、月に二、三度通う。そして、周辺の自然をテーマにした作品を作る。田村さんの作る花器は、自然の岩のように野性的で温かい。「鳥海山を登ると、ごつごつした火山岩の裂け目から小さな木や野草が伸びている様を見る。あの美しさ、与えられる安らぎを部屋でも感じられるようにと土を焼く。華美な花は似合わない。その辺にある小枝や葉っぱを生けるだけで暮らしに潤いを与えられる花器を作りたい」。陶器を引き立てるのは、八柳さんが藍や草木で染めたタペストリー。月を描いた作品が多い。「太陽の光は強い。全てを照らしてしまう。月の光ははかない。見上げたいときにポッとそこに出ていると安心する存在。作品を見る人に安らいでほしい」
 十年前から毎年、名だたる陶芸作家が集まる栃木県益子のギャラリーで個展を開催。昨年は、アメリカのエモリー大学で日本の文化作品として紹介され、展示会も行われた。料理研究家の栗原はるみさんとも交流が深く、仕事を共にすることも多い。「都会で暮らす人は、自然をテーマにした作品に癒やしを感じるのだろう。自然の中にいると気持ちが落ち着く。実は、創作しながら自分たちが癒やされているのかもしれない」
 作品の前には、いつも、とりみのの澄んだ空気と優しい時間が流れている。