布の上で抽象化された図形の輪郭が伸びやかに舞う。
色彩が洪水のようにあふれる。
この布の上に、想像の自由を妨げるものはない。
端切れを縫い合わせて赤田さんが描く絵は、
光うららかな春の野原のようににぎやかだ。

赤田 千恵子さん Chieko Akata 秋田市横森

赤田さんのキルト教室(赤田さんの自宅にて)
第2・第4金曜、第1・第3水曜

 赤田さんが作るのは、既存のパターン(型)を用いず、素材や手法に自由な工夫を凝らして作るコンテンポラリーキルト。さまざまあるパッチワークキルトのなかでもオリジナル性と表現力が重視されるジャンルだ。赤田さんは当初、パターンを使ったキルトを学んで制作していた。教室に通って四年たったころ、仙台で活動するコンテンポラリーキルト作家 郷家啓子さんの作品に出合い、衝撃を受けたという。そこで見たのは、型にとらわれない作風と斬新なキルティングで、思い描いたイメージを布の上に自由に表現したキルトだった。
  そして、郷家さんの教室に通い、キルトを通して自分らしい表現を探した。布地の色の組み合わせ方に面白さを感じ、浮かんだイメージを抽象的な輪郭と色の置き方で表す作風も見いだした。「好きな色の絵の具を並べるように布を置いてミシンで自由に縫い合わせる。なにか違うなと思ったら、縫った上からザーッと切ってまた縫い、納得いくまで何度も繰り返す。大胆に自由に作れるこのやり方が、私の性格に合っている」。からりと話す横顔に、創作を謳歌(おうか)する喜びがにじむ。
 作業スペースの戸棚には、赤、黄、緑、青、紫と、虹のように布地が重なって並んでいる。戸棚が絵の具箱なら、作業台の上はパレット。デザイン画をもとに色と色の破片を合わせていく。表地と裏地の間に柔らかなキルト綿を挟んだら、ミシン針に沿って布を動かし、筆を走らせるようにキルティングを入れる。使用しているのは、前後左右はもちろん、円を描いて針を進められる専用のミシン。赤田さんの十年来の相棒だ。一針一針の点が線になり、色彩の波に新たな模様が浮かんでいく。「自分の作りたいものを自分が気に入るまで作りたい」。一枚の布の上で、色、線、デザイン、細部まで赤田さんのこだわりと感性が舞っていた。