手のひらに乗るほどの小さなオブジェ。
金属製の人形やロボット、架空の生き物たちが不思議な物語を紡いでいる。
金属に命を吹き込み、詩をつづるようにして、
尾崎さんは、独自の世界を創造していく。

おざき しんごさん Singo Ozaki 秋田市外旭川

 耳を傾けると、かすかに聞こえてきそうな話し声。みつめていると音を立てて動き出しそうな不思議な世界の住人たち。尾崎さんがつくる架空の生き物や物体が、独特の気配を紡ぎ出して何かを語りかけてくる。
 さまざまな作品は、膨大なスケッチや落書きを基に発想したもの。しかし、ロボットについては、「基になるデザインや設計図は描かない」と尾崎さんは言う。ロボットは、心の根本にある創造への衝動と、創作の過程でわき出るイメージだけでつくられている。「古い時代のものが好きで、昔作られたブリキのロボットに興味を持っていた。あのロボットたちが持つ、独特の雰囲気を自分なりにアレンジしたらどうなるんだろうと考えて、まずは胴体から作り始めた」と話す。胴体を完成させた後に疑問がわいた。この胴体から伸びる手足はどんな長さでどんな形か? 頭の形や顔の表情は…? 型を取ってつくった小さな金属片を組み立てていくうちに、手足の長いスタイリッシュなロボットが完成した。
 鋳造で作品をつくるようになったのは、「たまたま立体の制作に興味がわいた。つくってみたら面白かったから」だという。それ以前は、石膏とアクリル絵の具を組み合わせた洋画や、クレヨン画を描いていた。また、詩を創作することもあった。学問として芸術を学んだのは、高校時代の二年間のみ。以後は、独自の道を歩んできた。七年前には、絵と立体の作品が半々の割合に。今は、立体が中心だが、「表現のスタイルやテーマにこだわりはない。次は、絵に戻ろうかとも思っている」とも話す。
 ただ、どの作品も完成すると、そこに確かに詩や物語が存在している―。不思議な世界の創世主は、静かにこう話して、まだ見ぬ世界の先をみつめていた。