春。山では雪解けと同時に、折れた木の幹や枝が川に落ちて漂流の旅を始める。あるものは河口の岸へ、あるものは海を渡って浜へ…。長い旅の果てに、偶然、佐藤さんに拾われた流木は、家具、時計、照明台、恐竜の骨に見立てたオブジェに生まれ変わった。

ドリフトウッドファクトリー 我流慕(がるぼ)
佐藤 泰幸さん Yasuyuki Sato 湯沢市川連町

 白い砂浜の上に現れたのは、ティラノサウルスの全身骨格! しかし、本物の骨でもなければ、骨格見本でもない。砂浜に流れ着いた木を一つ一つ組み合わせて作った流木のティラノサウルスだ(※表紙参照)。全長3.4m、高さ2.1m、重さ40s。佐藤さんは普段の10倍に当たる、軽トラック5台に積む分量の流木を集めて、この作品の制作に臨んだという。「何か大きな作品を…」と考えていて思いついたテーマが恐竜だった。
 「製材した木は、真っすぐで扱いやすいけど面白みがない。流木は、曲がっていたり、いびつだったり…。扱いづらいから味があって面白い。手間がかかるぶん、丁寧に作品が作れる」
 長い漂流の果てに打ち上げられた木は、角が丸まって個性的な形になる。長く海水に浸かっていたものは、塩分と日光にさらされて白くなる。木に独特の質感を与えるのは、長い時間と自然の力だ。流木アートは、自然と人との共同作業によって創られる。
 子どものころから、家業である仏壇製造の作業を見ていて、木工を身近に感じていた。家業の手伝い、サラリーマン時代を経て、京都の流木作家のもとで流木アートを学ぶ。2年前には自宅に工房を開設。それまでに培った木工の技術を生かして、いす、テーブル、花台、インテリア小物など、流木を使ったさまざまな作品を作っている。
 製作の合間には、砂の上で大きなソリを引きながら、一日がかりで何十sもの流木を拾う。「流木を拾っているときが一番楽しい。重労働だけど、すごく心は癒やされる」
 作品を通して、自然の恵みを大切にする心、自然の物に触れる喜びを子どもたちに伝えたいと話す佐藤さん。まるで宝探しを楽しむかのように、海、山、川と、自然のなかを力強く歩く。