木肌に触れるとサラサラした手触りと温もりが響き合う。規則的な編み目と不規則な編み目が組み合わさって不思議なリズムを奏でている。吉田さんの作る沢グルミのバッグやかごが、安らぎを運んでくる。

吉田 悦子さん Etuko Yoshida 男鹿市戸賀

 切り立つがけと深い緑に囲まれた海沿いの小さな集落に吉田さんの自宅兼工房はある。ただ、波の音と鳥の声だけが響いていた。「この環境があるから作品を作ろうと思う」。海を眺めながらゆったりと作品を作っているときが幸せなのだとほほ笑む。
 家の裏手の野山には材料となる植物が豊富にある。作品を作るようになったのも三十年ほど前にこの地に移り住んだことがきっかけだった。周囲に自生する植物を見て、かごを編んでみようと思い立ったのだ。「ここには買わなくても材料がたくさんある」。アケビヅル、杉の皮、山ブドウの皮など、そばに自生している植物には、店先にはない、自然のものだけがもつ美しさがあった。人の見よう見まねから始め、独学で技術を取得。「どこにもない自分だけの作品を」と独自の編み方で斬新なデザインを生み出している。
 沢グルミの皮を使い出したのは五年ほど前。育った場所の環境、樹齢、表と裏で異なる樹皮の色や質感に深い魅力を感じたという。「風雪に耐えてきた味わいが品格として樹皮に表れるように感じる」。木々の歩みに感謝するように枝を切り、樹皮を取って乾燥させ、水で戻して軟らかくしてから編む。
 「生きていると、悲しいことやつらいこと、嫌なことに遭遇するが、かごを編んでいるときは、それらを忘れられる。かごは私にいつも優しい」。出掛けるときは、どんなときも、どんな席でも、自分で作った沢グルミのかごを持って出る―。「かごは、私にとって恋人のような存在。デザインを考えるとき、材料に触れるとき、持って歩くとき、いつもハートマークのドキドキです」。青い海を照らすまばゆい太陽のような笑顔があった。