古い着物地や野良着を使って洋服やバッグを作る。そして古き時代の農村に生きた人々をイメージした人形も作る。田んぼや空、草花がそよ風に揺れるあぜ道で見かけた穏やかな笑顔…。遠い記憶の中に眠る秋田の風景がよみがえる。

古布作家 袴田 ひろ子さん Hiroko Hakamata
手づくり工房はかまた 能代市高埴213-4 TEL.0185-55-0672

 「私自身が農家の出身。おじいちゃんとおばあちゃんといつも一緒にいて遊んだり農作業を手伝ったりしていたから、自分の記憶が人形の表情や姿に出ている」。そう話して作品の写真を眺めながら「だからかな? このおばあちゃんの顔は私に似ていて」と笑う。
 人形は“身長”約30cm。何か優しい言葉をかけてくれそうな、穏やかな表情だ。
 人形が着ている服は、昔の人が着ていた野良着をほどいて小さく作り直したもの。人形の目線の先―、工房はかまたの作業場には、たくさんの古布が積み上げられていた。
 「昔の着物地は素材がいいし、とっても丈夫。眠らせておくにはもったいない」。着物、着物の帯、野良着など古い衣類を集めては、丁寧にほどいて使う。カビで汚れたものは洗濯をして、生地の薄くなったものは重ねて縫って補強して…と手を加え、ミシンで細かくキルティングを施して、洋服やバッグを作る。「今は、はやりの過ぎた服は着られずに捨てられてしまうことが多い。でも昔の人はそうしなかった。物を簡単に捨てないで大事に大事に使ってきた」
 以前、東京で開催した展示会に人形を「連れて行った」とき、人形を見に何度も足を運んでくれた人がいたという。「秋田出身だ」と話したその人は人形を前に涙を流していたという。「お互いを知らなくても原風景が同じであれば共感できるから不思議」と袴田さん。古布に囲まれながら「物をつくるって本当に楽しい」と話して人形の穏やかな顔をみつめていた。