使い込んで何度も洗って初めて
出てくる
風合いが好きです。

藍木綿にあこがれて始めた刺し子
 小松柾子
さん Masako Komatsu 秋田市広面


 布にひと針ひと針、針目に気を遣いながら糸で模様を表わしていく刺し子。根気と熟練の技が必要だが、小松さんは「中学時代は家庭科は苦手だったのよ」と笑う。手芸にあまり興味はなかったが、子供のころ家では食器を拭く布巾は三枚仕立ての晒しに、又足拭き雑巾は確か藍木綿に白い糸で、井桁や放射線など手の込んだ模様ではないが刺したものを使っていた。洗いざらしの使い込まれたそれらのものが妙に存在感があり「生活の中で輝いていたなあ」と思い始めたのは二十歳も過ぎたころ。兄の結婚祝いに何かやってみようと、赤い糸で簡単な模様ではあったが布巾を刺してみた。そして数年後、「生活の絵本」の中で再び刺し子に出合い、麻の葉や七宝繋ぎなど本格的な模様を刺すことになる。その後に移り住んだ郡山市では会津木綿の平織りの藍木綿に出合い、そこでの生活が現在の趣味の刺し子のもとになった。

 
毎日使うものを刺す

 布が貴重品だったひと時代前まで刺し子は農家の女性たちに必須の技術だった。ランプのわずかな明りの下で作業着を補強するためにていねいに細かく
刺し子をほどこした。質素ではあるが、 その模様は華麗ともいえるほど見事であった。そうした実用から発展してきた刺し子だが、今は装飾としていろいろなものにほどこされている。小松さんが刺し子するものはタペストリー、マット、布巾、のれん、袋物、風呂敷などの日用品である。
「毎日の暮らしの中で使って楽しめるところが魅力ね。使うほどいい味が出てくるし、新しい技法も頭に浮かんでくるから、オリジナルを作るという楽しさもあります」
 刺し子の作品はもはや小松家の一部になっているようだ。

 
生活の中で完成していく刺し子

 湯通しした木綿の布にチャコペンシルやチャコペーパー又は鉛筆などで正確に作図をしてから刺し始める。小松さんの刺し方のポイントは糸の太さと針目にある。力強く表わしたい時は糸の太い、細いにかかわらず、大きな針目で刺す。逆の場合は針目を細かくして繊細さを表わすようにする。そして、刺した後は糸が遊ぶ位に徹底的に糸こきをする。
 何年も使っていくうちに糸が布になじんでいくのだという。生活の中で完成していく刺し子。小松さんがいう刺し子の魅力である。