中嶋長史

 2012ミス・ユニバース・ジャパンの地方大会が、このほど秋田で初めて開催され耳目を集めている。11月4日に第1次予選を終え、12月5日にはいよいよファイナル。「秋田から世界一の美女が誕生するかもしれない」。そんな、胸騒ぎを覚える人も多いことだろう。この仕掛け人こそが中嶋長史さん、34歳。この人がいなければ、秋田大会は実現しなかった。

直感で初志貫徹の人

 本業はIT企業社長。とは言うものの、業務内容はウェブコンテンツのコンサルティングなどにとどまらず、クラブでのイベント企画やバー経営など多岐にわたる。かすかに漂うコロンの香りは、今どきのおしゃれな経営者といった風情だが、人なつっこそうな瞳は真っすぐ人をとらえて離さない。
 出身は旧角館町。やんちゃな少年で、漫画『六三四の剣』に憧れて始めた剣道では、中学生全県大会でベスト8に入る腕前。策士らしく「普通は誰も使わないような技で驚かせて勝ちにいっていましたね」
 高校卒業後は、ミュージシャンを目指して上京するものの挫折。さまざまなアルバイトや職業を経験しながら生き方を模索する中で、時流に乗って手がけてみた「アフィリエイト」で手応えを感じ、26歳で自らの会社を起業。「業種こそITですが、ひとつのことにこだわらずノンジャンルでおもしろいことを、というスタンスでやっています」
 現在は複数の会社経営に関わっている。ミス・ユニバース・ジャパン(以下MUJ)につながったのは、モデルのコーディネートや派遣を行う福岡の会社だ。
 「MUJ福岡大会(2011年)の運営組織に友人がいて、この会社が接点となって福岡大会を手伝ったのがきっかけ。MUJは、それまでほぼ主要都市でしか開催されていなかった。でも、僕が見た沖縄大会(今年の地方大会の一つ)は主要都市での開催よりも熱気があり盛り上がっていた。美人といえば秋田―直感的に秋田にマッチするんじゃないか、絶対に必要としている人がいるんじゃないかと思いました」
 一度これと決めたことには一直線。それまでは「東北大会」という大きな枠組みでしか開催されていなかったが、アイビージージャパン(MUJの権利所有者・企画運営者)に秋田でも地方大会を、と何度も直訴。その熱意が通じ、また東日本大震災の影響で日本大会が遅れ気味だった状況もあって、今年の初夏に許可が下りた。
 「僕はあきらめの悪い男なんです(笑) 恋愛も一度きりで、妻は小学校1年のときに一目ぼれした人。つきあってくれるまで何回もふられたけど初志貫徹でした」

秋田を「美の発信地」に
 郷土愛というのは、ふるさとから遠く離れた場所でこそ強く感じるものなのかもしれない。上京後も、秋田に貢献したいという気持ちは常にあった。「県外にいると、良い面悪い面ともに県内にいては見えないことが見えてくる。秋田のイメージアップに努めたい、秋田を『外向き』にしたいという気持ちは特に強かった」
 どこの都道府県でも、特に地方であればあるほど、観光立県の難しさには四苦八苦していることだろう。しかし「美人」というコンテンツでは、秋田は他県よりも有利でチャンスがある。観光資源ではなく人的資源で活気を、そんな発想がしなやかだ。
 「秋田にはすでに『秋田美人』というブランドが確立している。これは強みです。もし、秋田から世界一の美女が誕生したら、ここが美の発信地になる。女性たちのあこがれの地になって、秋田の食が注目されるかもしれないし、美容界をリードする存在になれば産業も潤ってくるはず。そうなれば意義もあるし、秋田も変わると思うんです」。美に対する意識を根幹から向上させて、秋田をもっと引き上げていきたいと熱く語る。

成長を描くコンテスト
 MUJは、単なる美女の選抜コンテストというわけではない。選考基準にも「外見の美しさだけでなく、知性・感性・人間性・誠実さ・自信などの内面、積極的に社会貢献したいという意識も重要視される」と明記されているが、何よりコンテストを通じて、女性たちの「成長していくプロセス」が見どころだという。
 一連の流れを見てみると、まずは全国17会場の地方大会の第1次予選からスタート。地方大会の最終予選を通過したファイナリストたちは、約4カ月間のビューティートレーニングで美に関するトレーニングを積み、日本最終選考会に進出。世界大会へと進むグランプリ1名が決定するまでは、実に半年以上を要する。そして、この間の一瞬一瞬もすべて審査の対象とされる。
 「大会前と大会後では、別人のようになっていくのがわかります。女性として格段にレベルアップして、世界と戦っていける自覚のある人に変わっていく。秋田の女性は控えめな人が多い印象ですが、直感を与えてくれる、原石みたいな女性が現れるといいですね」
 地方予選の一環である、秋田独自のビューティーキャンプはすでに終了。趣旨に賛同した地元の老舗料亭や美容関係などがこのプログラムに参画した。
 「レッスン内容は、美容に関するトレーニングはもちろん、立ち居振る舞いや食事のマナーなど広範にわたります。初めての試みなのに、温かいお心のある企業の存在が本当にありがたかった。これを機に活気の輪が広がっていけばと思います」
 MUJが女性の成長を描き出すコンテストであるように、本大会は秋田県全体にとっても、自信と誇りを持てる新たなコンテンツを発掘するプロセスとなりそうだ。中嶋さんにより秋田に落とされた「美の一滴」が水紋のように広がり、決して一過性ではない気運の波として高まり、やがては大きいムーブメントになっていくことが願われている。
(2011.12 vol91 掲載)

中嶋長史1
なかじま・じょうじ
秋田県仙北市角館町生まれ。角館高校卒業後、上京。アルバイト、会社員等を経て26歳で起業。2005 有限会社ドットジェット設立(東京都)、代表取締役社長就任。業務内容はウェブコンテンツのコンサルティング、イベント企画、飲食店経営。2010 ナッツコミュニケーションズ株式会社設立(福岡市)、CEO就任。