Yasuko Suzuki 鈴木 康子さん ミヌック・インターナショナル代表取締役


 キーワード1 「モモ」

 「明朗活発、行動的!な高校生でした。でも一方では躁鬱(そううつ)が激しい面もあって、〈人は何故生きなきゃいけないんだろう?〉みたいな哲学的なことも考えていましたね。一種コンプレックスの塊。だからこそ生きてる自分を価値づけるために、できるだけ明るく、積極的に振る舞っていたのかも。演劇部に入っていて、部活のために学校へ行ってるようなところがありました。当時、西高の演劇部はまだ新しかったこともあって、〈自分たちで部を作り上げている〉っていうのをすごく実感することができたんです。演劇に興味を持つようになったのは、小学校の頃に読んだミヒャエルエンデの〈モモ〉というお話をミュージカルで見たことがきっかけ。その時はもう感動!の一言。まずストーリーが良くて、ものすごくインパクトがありました。とにかく生まれてはじめての衝撃!という感じ。そして〈こういうメッセージを送る立場に自分もいつかなりたいな〉と思ったんです」

 キーワード2 「もの造り」

 「最初に就職したのは大手企業の出版部でした。その会社はアメリカ型っていうか、給与も仕事の責任もまったくの男女平等。やりたいことを自由にやらせてくれるかわりに、その責任も当然重いんです。私の仕事は求人広告の営業アシスタントで、求人が必要なところに広告の企画提案をすることでした。大変な仕事ではあったけれど、〈会社の皆が一つの雑誌を作り上げて会社を運営していく〉っていう点に、演劇と同じ〈ものを造る〉っていうことの充実感を感じたんです。ものを造るっていうのは、一つの物の完成に向かって思考錯誤し、思いを込めて創造することだと自分は思っています。その中にいろんなドラマがある。演劇だったら、幕の上がる瞬間の緊張感と閉じる時の解放感が最高。雑誌も、世に出て人から反響を得たときの喜びの瞬間のためにがんばる。出版って一見華やかだけど、内容は締め切り絶対主義の地味な世界です。演劇も上演中は華やかだけど、実はコツコツでしょ?そんな共通点を感じて、この会社の魅力にハマったんです。営業も編集もこなして、新しい雑誌の創刊も手掛けました。ところがキャリアは身についてくるんですが、そのころの私は将来の夢が漠然としていて、特別なものがないことに気がついたんです。それであるとき自分に限界を感じて、5年間勤めたこの会社を辞めました」


シンガポールの商業中心地シェントン・ウェイ

キーワード3 「シンガポール」

 「退社して1年後、試験を受けて添乗員の資格を取りました。フリーの添乗員になろうかと思っていたんです。そんな矢先、知人からシンガポール行きの話が舞い込んできました。シンガポールに日系企業向けの広告代理店が新しくできるから行ってみないか、と。そのころ海外でチャレンジするということへの好奇心が強かったので、チャンスだと思い行くことに決めました。シンガポールに行った当初は、日本の新聞の現地版と現地媒体の広告営業、および雑用が私の仕事でした。そのうちに以前の経験を活かして、会社案内などの企画出版物を作るようにもなりました。でも収入に限界があったんです。そこで自社媒体として何か作ってはどうか?自ら提案しまして、シンガポールに住む日本人向けの情報誌を作りました。企業からの広告料を収入源として、購読希望者には無料で配布するというフリーマガジンです。これは順調に伸びて、当時は数万人の購読者がいたと思われます。ところがだんだんやっていくうちに、仕事に関して〈100%自分のビジョンで経営したい!〉と思いはじめて…。結局その後独立して、シンガポール内に自分の会社を作ったんです」                


康子さんのお気に入りスポット「ボート・キー」は会社に近く、仕事帰りに仲間とよく立ち寄る
※マンゴスティン=モモの味に似た東南アジアで人気の甘いフルーツで、フルーツの女王と比喩される。スタッフのほとんどが女性であることから、シンガポールを中心にアジア全体に広げたいという思いから「マンゴスティン倶楽部」という名がついた。


世界中のフルーツが一年中集まる
シンガポールのフリー・マーケット

「マンゴスティン倶楽部」
シンガポール在住の日本人向け
無料生活情報誌
発行部数7,000部

 キーワード4「マンゴスティン」  
                     
 「ミヌック・インターナショナルは企画・制作・出版会社です。まだ一年前に出来たばかり。私は社長であるけれど、自分で取材もするし企画編集もします。もともと物を書くのが好きですし、半分趣味かな。スタッフは現在6人で平均年齢30歳。みんな若いし、それほど儲かっているわけじゃないから現場でやってます。自社からは〈マンゴスティン倶楽部〉という、在住日本人向けの無料生活情報誌を発行しています。内容はシンガポール内でのイベントや、レストラン、財テク、トレンド情報のほかに旅行記やエッセイなど。これもやはり広告収入で運営していて、バンコクにも姉妹版が出ています。発行部数は7000部。日本人世帯数が約一万世帯(約3万人)ですから、かなりの人を網羅していると思います。マンゴスティン倶楽部はインターネットとも組み合わせていて、ウェブは一日7000ヒットを超えています。新しくシンガポールに来る方をはじめ、大反響です。現在はインターネットビジネス、例えばネット上で個人輸入とか買い物ができるという電商取引を考え中です。仕事は必ず結果を出します。私を駆り立てるもの、原動力は〈生きてる〉っていう実感の欲求かもしれません。この国はもともと多民族国家なので外国人には寛容なところがあります。だから私もスムーズにとけ込めました。それとほぼ完璧な男女平等社会です。政府が女性も立派な労働力だということを分かっているんです。人権とはべつにね」

 キーワード5 「アジア」

 「日本には結構不満があります。とくに政治については、戦争責任の問題や海外貿易政策に関して矛盾だらけ。嫌われることを恐れず、世界状況を冷静に見据えた上で、日本の将来をきっちりと考えられる、愛あふれる強いリーダーが出てきて欲しいです。ボーダーレス社会になることを主張できる人が。海外において、日本人はイエス・ノー、とくにノーをはっきり言わないのでイライラされることが多いようです。また〈井の中の蛙〉っていう感じがあって、日本がすべてだと思っている人が多い。もちろん、全部の人がそんなわけではないけれど。インターネットの影響もあって、ここ2、3年で、すごく変わってきていますしね。秋田の人たちも、なるべく多くの人たちに海外へは出て欲しい。旅行でも何でもいいから。視野を広げることはとても必要だと思います。とくにシンガポールは治安が日本よりいいので初海外にはお薦めです。東南アジアのハブ都市なので世界中からいろんな人が集まっていて、国際色豊かです。道にゴミを捨てたら罰金という厳しい規則もあって、本当に美しい街ですよ。秋田には年2回ほど帰ってきています。食べ物が美味しくて、自然が美しくて、人がやさしい…そんなところをシンガポールに紹介したいですね。秋田にも、もっとアジアと仕事をしてほしい。外に目をむけて産業を活性化してほしいです。やっぱり故郷ですから、私自身も何か産業で貢献できれば、と思っています。自分たちもアジア人だという認識をもって、いまこそ和魂洋才の魂をアジア全体に広めていってほしいですね」


三修社より出版された
〈ホリデイワールド シンガポール
 長期滞在者のための現地情報)

(1999.11 Vol.21 掲載)


すずき・やすこ

秋田出身。秋田西高校卒業後、東京の秘書専門学校へ。大手企業の出版部門に5年間所属し、1991年退社。一年後、知人の紹介でシンガポールの広告制作会社JSP社に入社。広告収入で運営する、在シンガポール邦人向けの無料日本語情報誌を同社より創刊させる。1998年にマルチメディア・コンテンツ企画・制作・出版会社〈ミヌック・インターナショナル〉を設立。インターネット・メディアにも力を注ぎ、現在ウェブ「デジタル・マンゴスティン」とフリーペーパー「マンゴスティン倶楽部」を運営。日本の雑誌や本にむけて、アジアの記事を自ら取材し執筆もしている。三修社より出版された〈ホリデイワールド シンガポール 長期滞在者のための現地情報〉は好評発売中。
〔お問い合わせ〕
ミヌック・インターナショナル Minook International (S) Pte Ltd
26B-A Murray Terrace, Murray Street, Singapore 079531
Tel.+65-324-2127 Fax.+65-324-2161

http://www.mangosteen.com.sg   E-mail:yasuko@minook.com.sg