秋田県医師会 市立秋田総合病院第三内科 本間 光信

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歴史/有史以前から人類と共存

 この病気の歴史が語られる時、よく言及されるのは、古代エジプトのミイラの脊椎に結核病巣が確認されたという事実です。この事実は、結核が少なくとも五千年前から人類と共に存在していたことを物語っており、ツタンカーメンも十八歳で肺結核で亡くなっています。また、ピアノの詩人として有名な音楽家ショパンも、その素晴らしい創作活動の裏側では二十五歳で肺結核を発病。以後はこの病気との壮絶な戦いを続けながら数々の名曲を残し、三十九歳という若さで夭折しています。ロシアの文豪ドストエフスキーやチェーホフも、日本では森鴎外や石川啄木らが結核で命を奪われ、戦国武将武田信玄の死因も肺結核による口客血死だったと言われています。

感染と発病/感染イコール発病ではない

 結核はその殆どが結核菌を排菌する患者から咳などで飛散した空中に浮遊する結核菌を含んだ飛沫核を吸入して感染、発病します。好発臓器は菌の侵入門戸の肺ですが、そこから血液やリンパの流れに乗ったり、管腔内を経由してあらゆる臓器組織に達し、病巣を形成しうると考えられています。しかし感染者のすべてが発病する訳ではなく、発病者は生涯を通じてもその中の一〇〜二〇%に過ぎません。
  世界や日本における現状/現在も世界や日本における最大の感染症
 今日、世界的にみた結核の蔓延状況は最悪で、総人口の三分の一の十七億人が感染しているとされ、年間約八百万人の患者が発生、三百万人が死亡し、しかもしばらくの間はさらに増加傾向が続くと考えられています。その原因は低開発国では、医療や生活レベルの低さなどに伴う未発見患者の多さ、発見患者の治癒率の低さ、米国ではAIDSの流行や移民、難民の増加、西欧諸国では移民、難民の増加がその主たるものと考えられています。我が国においてもかつては国民病とまで呼ばれ、昭和二十五年まで死因の第一位でしたが、国を挙げての予防対策の推進や、化学療法の進歩により患者数の順調な減少が得られていました。しかし、その傾向に最近二十年間は翳りが見え始め、ついに平成九年には増加に転じ、平成十一年七月の厚生省の異例の結核緊急事態宣言発表に至りました。因みに年間四万人が発病、三千人が死亡しており、増加の原因は低開発国や先進欧米諸国とは異なり、人口の高齢化と過去の結核蔓延の影響がその主体であると分析されています。

症状/長引く咳には要注意

 肺結核患者の中には、検診で偶然に発見される例もありますが、七〇%以上は咳、痰、胸痛、血痰、口客血などの呼吸器症状や、発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状で医療機関を受診して発見されます。咳や痰が長引く場合、特に咳が二週間以上続く時には医療機関を受診して検査を受けることをお勧めします。

診断/結核菌検査法の著しい進歩

 結核菌感染を知る唯一の検査はツベルクリン反応(以下ツ反)です。ツ反が陰性であれば原則として感染を否定できますが、感染後四〜八週間までは陰性であり、重症結核で全身状態が不良な場合にも陰性になることがあります。また、逆に我が国ではツ反陰性者に発病予防のためのBCG接種が行われており、ツ反陽性でも必ずしも結核菌感染を意味する訳ではなく、その解釈は単純ではありません。結核症の大多数を占める肺結核の発病の診断や治療効果判定に、胸部X線写真は有用な検査ですが、あくまで補助的な手段で、痰や胃液などからの菌の検出の有無が、発病の診断や治療終了時決定の決め手になります。近年、結核菌検査法に、菌の遺伝子を増幅することで微量でも検出可能で、かつ短時間で判定できる方法が開発され、有効利用されています。

治療/複数の薬剤の併用による強力な短期(六カ月間)治療が基本

 治療の基本は内科的治療です。化学療法の進歩により治療期間は昭和三十年代の三〜四年間に比べ著しく短縮され、今日では種々の抗結核剤が無効な多剤耐性菌排菌例や、副作用や合併症のため薬剤の継続投与不可能な例を除けば、治療開始当初は抗菌力の優れた四剤併用で二カ月間、その後は一剤減の三剤併用で四カ月間の合計六カ月間で終了することが可能になりました。同時に、以前に比較し外科療法の適応となる例は多剤耐性菌排菌例などの特殊な例に限られ、著しく減少しました。

今後の問題点/過去の遺物になった訳ではないことを認識することが重要

 このままでは我が国における結核の根絶は二〇六〇年になると推定されていますが、その前に立ちはだかる新たな障害として、AIDSの蔓延と開発途上国からの移民、難民の問題があります。AIDS患者の結核発病の相対危険度は健康人の一七〇倍にも達し、移民、難民は結核を持ち込む可能性が高いからです。また、もっと身近なものとして、増加に転じたとはいえ過去の結核蔓延時代に比較すれば患者数が著しく減少したため、一般市民のみならず医師の結核に対する関心の低下が生じ、それが受診の遅れ、診断の遅れに繋がり、患者本人の重症化や、集団感染を招来するという懸念もあります。結核は決して過去の病気ではなく、未感染者に対するBCG接種、既感染者に対する抗結核剤の予防投与といった発病予防の問題や、格段の進歩を遂げた診断や治療にもいくつかの課題が残されており、現状を正しく理解することが重要と考えます。