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経営学の勉強のために米国に留学中のあるご一家は、幼いお子さんが四人いらっしゃいます。冬休みになって、日本からお母さまが孫たちの面倒を見ようとはるばるおいでになりました。ところが、このご婦人は渡米後まもなく体調を崩し、高熱が続いて寝込んでしまいました。インフルエンザでした。結局、三週間の滞在のうち二週間を療養に費やすことになり、ご本人ももちろんお気の毒でしたが、おばあちゃんの訪問を楽しみにしていたお孫さんたちはがっかり。日頃子育てに追われている留学生のご夫婦も、束の間の休息の当てがはずれてしまいました。米国では、かぜ(cold)と区別して、流感、インフルエンザをフルー(flu)といいます。「きょう、ちょっとかぜ気味でね」というのはともかく、「どうやらフルーみたいなんだ」となると、相手は決まって「それは大変!早く家に帰って休まなきゃ」と大騒ぎになります。
インフルエンザはインフルエンザウイルスを病原体とする感染症です。人から人へ雑踏の空気などを介してごく短期間に大流行する危険性があるので、ワクチン接種による予防が非常に重要と考えられています。インフルエンザウイルスに対する免疫は、はしかやおたふくかぜなどのウイルスと違って、一度かかったら大丈夫、ということが当てはまりません。さらに、このウイルスは毎年少しずつ性質を変えながら流行するので、ワクチンは毎年、しかもその年用に作られたものを接種する必要があります。この冬、すなわち2001/2002シーズン用のワクチンとして、A(H1N1)型、A(H3N2)型およびB型の各型を含むようにというWHOの指針が、すでに今年の二月に示されています。これは、昨シーズンの流行型の分析をもとに、国際的に決められています。現在、インフルエンザワクチンの安全性は高く副反応はほとんどないと言えるようになっています。一方、その効果については、発症を100%抑えるわけではないため誤解されやすいのですが、ワクチン接種によって発症者が減少し重症化も予防できることが、各国の臨床試験によって証明されています。また、日本ではインフルエンザワクチンは二回接種法が用いられてきましたが、一回接種でも十分な抗体価の上昇が得られる場合もあるという研究結果を受けて、昨年十月、当時の厚生省が「六十五歳以上は一回の接種でよい」という見解を示しました。
近年、ウイルス感染に対する抗ウイルス薬の開発も進歩しました。現在、日本で市販されている抗インフルエンザウイルス剤として、A型に効くアマンタジン、A、B両型に効くザナミビル、オセルタミビルなどがあります。これらの薬はウイルスの増殖を抑えますが、いずれも発症から四十八時間以内に投与しないと効果がないので、並行して迅速診断のための検査試薬もいくつか開発されています。それが咽頭の粘液を採って調べる方法です。このような治療や検査の進歩は今後さらに期待されますが、発症や大流行の予防に対するワクチンの重要性はいささかも変わりません。
ワクチン接種の目的は、各人の発症を予防し、発症した場合でも重症化や肺炎、脳炎などの合併症を防ぐこと、もう一つは流行を最小限にくい止めることです。ワクチンの接種が特に望ましいと考えられるのは、インフルエンザの合併症が起こりやすい、高齢の方、小児、慢性的な基礎疾患を持っている方、療養施設に入所している方およびその家族や職員、医療関係者などです。さらに重要なことは、インフルエンザの流行期は冬ですので、南半球の国々では日本の夏季に流行期を迎え、他にも一部の国では雨季が流行期となります。したがって、インフルエンザは世界各地、いつもどこかで活動していて、海外旅行が日常のものとなった今日では、人々が各地を行き交いながらそのウイルスを次々と伝播している、と言いかえることもできるかもしれません。この冬、旅行を計画されている方は、インフルエンザの予防接種も準備のひとつとしてご考慮されてはいかがでしょうか。
さて、冒頭の米国留学生のご一家、幸い幼い子供たちはすでにインフルエンザワクチンの接種を受けており、発症を免れました。そして翌年の冬、おばあちゃんは満を持して予防接種を受け、再び渡米しました。今度は予定通りお孫さんたちとクリスマスを、そして若いご夫婦は久々に二人だけでお出かけして地元で有名なイタリアンレストランでのお食事、映画にジャズクラブと、大いに楽しいひとときを過ごしたのでした。
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